CLIE社への抗議

※追記(2018. 12. 24)

はじめに

本抗議文『CLIE社への抗議』は、舞台公演の企画・制作を行う株式会社CLIE(以下CLIE社)、及び、同社代表取締役社長であり、同社作品のプロデューサーを務める吉井敏久氏に対し、下記の件に関する抗議・要求を行い、併せて、本件に関する社会的・倫理的問題について広く周知することを目的としたものです。

  • 2018年11月18日にCLIE社が新作舞台作品『メゾン・マグダレーナ』の上演(2019年6月・8月予定)を発表したこと。
    • 同作は2008年~12年まで上演されていた舞台『マグダラなマリア』シリーズの実質的な続編に当たり、同シリーズから引き続き湯澤幸一郎氏が原作・脚本・演出・音楽・主演を務めている。湯澤氏は2013年に、自身が講師を務めるワークショップの受講者である少女へのわいせつ行為により、児童福祉法違反で逮捕され、翌年執行猶予なし懲役二年の実刑判決を受けた(湯澤幸一郎 - Wikipediaより)。
  • 上記の件に関する多数の批判を受け、『メゾン・マグダレーナ』のプロデューサーである吉井氏がツイッター個人アカウントにて発表した声明文の内容および発表形式に関して(当該ツイートは下記)。

    • 【追記(2018. 12. 24)】上演中止告知後、吉井氏の声明文は削除されました。右記アーカイブにて閲覧が可能となっています:http://archive.is/x63bK

本抗議文の作成者は、これまでCLIE社制作の作品を鑑賞してきた観劇ファンの個人です。本件を単にファンの間だけの問題に留めるべきではないという考えのもとで、本抗議文を発表しました。

CLIE社に対する要求

  • 『メゾン・マグダレーナ』上演および吉井プロデューサーの声明文に対する多数の批判の声を踏まえ、上演に関して、中止の選択肢を含め再検討してください。
  • 倫理的・社会的見地から上演の是非が問われていることについて「吉井氏個人の思い」ではなく「CLIE社としての見解」を公的に表明してください。
  • 湯澤氏の過去の性犯罪について、問題を認識し、再犯があってはならないと考えているのであれば、単に主観的な確信を表明するだけでなく、具体的な方策を取ってください。

経緯

本件については既にウェブ上で多くの疑問・批判の声が上がっており、その中で当時および現在の経緯についても有志の方がまとめて下さっています。
逮捕時より現在に至る経緯は下記まとめをご参照ください。
【メゾン・マグダレーナ】湯澤幸一郎氏の性犯罪歴と釈放後の活動 - TORCHLIGHT
また、2014年、湯澤氏の裁判を傍聴しツイッター上でメモを残されていた@celerine_氏が2018年11月24日のツイートにて経緯の概括を行っています。参考のため以下にリンクを記載します。


(上記ツイートから始まる一連のツリー)
 

本件に関する諸問題

『メゾン・マグダレーナ』上演について

  • 性犯罪者の場合、犯罪者一般の更生・社会復帰の問題とは性質が異なるはずである。公の場への名前や顔の露出がある以上、被害者がフラッシュバック等の更なる被害を受ける恐れもあり、より慎重さが必要と考えられる。 
  • 湯澤氏は今回の上演において、人気シリーズ作品の原作・脚本・演出・音楽担当という、事件当時と同等の権力ある立場に就いている。
    • 湯澤氏と事件被害者の間には、性別・年齢のみならず、講師・演出家と受講生・役者志望者という立場上の大きな不均衡もあったことに注意すべきである。本件には児童への淫行・セクハラに加え、パワハラという問題も絡んでいる。
  • 上記より、本件は単に犯罪者の社会復帰という問題に留まらない、より慎重を期すべき問題を含んでいるといえる。 
  • 湯澤氏は2016年8月、ツイッター個人アカウントでの発言の形で公的な場に復帰し、事件に関する反省や後悔の意を述べているものの、権力ある立場のもとでの性加害それ自体に関する反省・謝意を表明していない

(2016年8月20日付、ツイッターでの湯澤氏個人アカウントのツイートを参照。長くなるため文末脚注の形でツイートを引用します *1

    • 上記の状態のまま、湯澤氏が2016年に個人主催のワークショップを再開していることは問題であり、演劇業界関係者は重く捉えるべきである。

吉井氏声明文について

  • 性犯罪に関する懸念という社会的問題に関して、CLIE社が企業としての公式見解を出すべきところ、吉井氏個人の「思い」による弁明で済まされている。(2018年11月27日時点で、吉井氏声明はCLIE社の公式HP・公式ツイッターアカウントからはリンクされていない) 
    • もし、今回の上演が吉井氏個人の意向のみによるものであれば、なぜ吉井氏の個人興行ではなくCLIE社での企画・制作となっているのか。CLIE社の方針や姿勢が吉井氏個人の思いのみに大きく依存しているのであれば、企業として不健全な状況ではないか。 
  • 吉井氏は、湯澤氏を権力ある立場に就かせることに関し「再犯の可能性はないと確信しました」という主観的判断のみで弁明を行っており、具体的な対策を欠いている
    • もちろん「再犯をするに違いない」と断定はできない。だが、具体的な証拠や対策の提示無しでは「再犯の可能性はない」という主張の信頼性は弱いままに留まる。
  • 上記「『メゾン・マグダレーナ』上演について」で述べた、犯罪者の社会復帰一般の問題とは異なる困難さに関する観点を欠いている。
  • 被害者および被害者となりうるスタッフ・俳優の保護という観点を欠いている。

他にも、様々な批判・疑問・懸念が考えられます(例えば、上演発表時の吉井氏個人アカウントでの告知が、過去の事件や上記の問題に関する事柄に全く触れず、非常に明るいトーンのものであったこと等)。ここでそれら全てを挙げることはできませんが、上記の点だけでも大いに問題であるはずです。

読者の方へお願いしたいこと

演劇業界関係者の方へ

  • 今回の件は2.5次元舞台や若手俳優演劇のファンが」「好きな作品や俳優に関する個人的な感情だけの問題で怒っている」というものではありません。 
  • 2017年に告発された演出家・市原幹也氏のセクハラ問題と同様、演劇における権力を傘に着たセクハラ・パワハラに関する問題であり、セクハラ・パワハラ・性暴力への対処不足が放置されているという問題です。
  • 演劇業界に対する観客からの信頼に関わる問題として、重く捉えてください。

CLIE作品ファンの方へ

  • 本抗議文に部分的にでもご賛同頂ける方は、メールや観劇の際のアンケート等で賛同の意を示したり、何らかの意見表明を行ったりしていただければ幸いです。
    • 今回の件でCLIE社への信頼を失い、もう同社作品の観劇は行わないというお考えの方は多いと思います。
      • 恐らく、既にメール等で意見を送られた上で、声明文に失望された方も少なくないはずです。観劇ファンの信頼を損なっていることを、CLIE社・吉井氏には重く受け止めて頂きたいと思います。
    • 他方で、CLIE社のあり方には疑問があるが、CLIE作品の全面的なボイコットはためらわれるという方も少なくはないと思います。その場合は、現場に足を運んだ上で、アンケートや手紙といった形で意見表明を行うことも一つの方法であると考えます。
      • CLIE社はこれまで『Club SLAZY』『最遊記歌劇伝』等、様々な魅力的な作品を制作してきました。単に人気若手俳優を集めて若い女性ファンの集客を狙うといったものではなく、作家性やストーリー性・音楽性、芝居としてのおもしろさを備えた作品が多数発表されてきたことは、CLIE作品ファンの方々の知る通りです。それだけにいっそう、CLIE社の状況は深く憂慮すべきものです。
      • 現在、『メゾン・マグダレーナ』上演に関し、CLIEや吉井氏への批判の声がツイッター上で多数挙がっていますが、単にウェブ上で本件を知った人々からの抗議に留まる問題ではなく、まさに劇場に足を運んでいる観客当人が、現在のCLIEのあり方に疑問を抱いていると示すことには、一定の意義があると考えています。 
  • いずれにせよ、ファンは製作者側に対して受動的な立場に甘んじなければならないものではなく、ファンだからこそできる働きかけや要求があるはずです

備考

  • 本抗議文では、CLIE社における「セクハラ・パワハラ・性暴力への対処不足」「企業としての公的な態度の欠如」を問題視し、批判を行っています。
  • 今回の件はセクハラ・パワハラ・性暴力に関わる社会的問題であり、単に個人の好み・意向だけに関わる問題ではありません
  • 他方で、少なからぬCLIE作品ファン、『マグダラ~』ファン、若手俳優舞台ファンの方々が、作品や劇場という場への愛着と倫理意識の間で深い葛藤を抱えているのもおそらく事実です。葛藤や迷い自体は各人にとって決して軽い問題ではなく、完全になくすことも難しいものであると考えています。
  • また、観客として劇場に行くか否か等、加害行為自体に直接関わるわけではない個々人の意識や行動に関して、どこで良い・悪いの線引きをすべきかについても、多様な考え方がありえます。本抗議文は、その点について特定の立場を主張するものではありません。
  • 本件に関して一番に考えるべきは、作品をとりまく場や仕組み自体の改善であると考え、本抗議文を作成しました。
  • 上で批判してきた内容、例えば本件に関して吉井氏個人の思いが前面に出されていること等は、CLIE社の作品づくりにおける個性やエネルギー、猥雑さにつながるものと考える方もいるかもしれません。ですが、観客がそれらを楽しめるのは、その陰で弱い立場の人が虐げられることがないという保証があった上でのことです。そして、その保証は具体的な態度や対処によって示されるべきであると考えます。

本抗議文の作成にあたり、本文中で紹介した文章に加え、下記を参照させていただきました。
メゾン・マグダレーナ上演、湯澤幸一郎氏の起用、吉井敏久氏のコメントについて - Privatter
性犯罪者を黙認する演劇界なんか衰退して当然だ

(2018年11月27日作成、同28日公開)

*1:

「CLIE社への抗議」発表後の経緯、及び舞台『メゾン・マグダレーナ』上演中止を受けて

2018年11月28日、舞台『メゾン・マグダレーナ』上演に関する抗議文「CLIE社への抗議」を発表しました。その後、12月13日にCLIE社より同舞台作品の上演中止が告知されました。
本記事では、11月末より中止に至るまでの大きな動き、および上演中止発表を受けての筆者(中町)の意見をまとめます*1。既にSNS等で多くの方々から本件に関する声が上げられているところではありますが、今後、類似の事態が生じた場合を考え、抗議文および本記事を記録として残しておきます*2

2018年11月末~12月13日(上演中止発表)までの経緯

2018. 11. 30
2018. 12. 09
  • 「なくす会」により、『メゾン・マグダレーナ』上演中止・再検討を求めるウェブ署名活動が開始される(終了時点で596名の賛同)

 

    • 参考:署名趣旨に関し、「なくす会」公式ツイッターアカウントからのツイート
2018. 12. 13

 

上演中止を受けて

  • 比較的早い段階で中止という具体的な措置があったことに関しては、よかったと考えています。
  • しかし、中止に関して、判断に至った経緯や、演劇における性犯罪・パワハラ・セクハラをめぐる問題に関するCLIE社の見解について説明が一切なかったことは、企業としての社会的責任を果たしている態度とは言い難いものです。
    • 抗議文において要求した「社としての見解の表明」「性犯罪の問題に対し、具体的な対策を取ること」に関する対応・応答がなかったことは、極めて残念に思います。
  • 上演中止発表によって、事態は一応の収束を見た形になってはいますが、CLIE社は改めて、公演決定から中止に至る経緯、及び社としての意見に関する説明を行うべきであると考えます。
  • 加えて、今回の件は、根本的には特定の個人・団体だけの問題ではなく、演劇業界における性犯罪・パワハラ・セクハラに広く関わる問題であることを改めて強調したいと思います。
    • だからこそ、単に上演中止や湯澤氏の降板といった、特定の作品・人物・団体等に関する処置だけをもって解決とすべきではないと考えます。
    • 抗議文において述べた通り、本件に関して一番に考えるべきは、作品をとりまく場や仕組み自体の改善です。
    • この点に関連して、「なくす会」によるミュージカル『クリスマス・キャロル』への公開質問に関し、主催者・スポンサーから返答がなかったことは大きな問題であると考えます。
      • 同ミュージカルは『マグダラなマリア』シリーズ及び『メゾン・マグダレーナ』と同様に、湯澤幸一郎氏が強い権限を持つ立場(脚本・演出・作詞・音楽・出演)を務めています。

最後に、抗議文へ賛同頂いた皆様、また抗議文を共有頂き、本件について議論・行動して頂いた皆様に深く感謝いたします。

*1:11月末より対応が遅れておりましたことは、筆者の体調不良等によるものです。

*2:なお、抗議文および本記事の筆者・中町は個人有志であり、下記経緯において紹介している団体や文章等とは独立です。